3年ぶりに歯科衛生士さんに歯をクリーニングしてもらい、虫歯の治療もしてもらった。ホリガン先生が削りにくい場所の虫歯と必死の格闘をしてくださっているとき、ホリガン先生の風貌がどこかしら母に似ていることもあって、なんだか泣けてきてしまった。自宅にいる家族、日本にいる家族から家事の援助や心遣い、贈り物といったかたちでいつもケアしてもらっているけれども、考えてみるとスキンシップを伴うものはほとんどない。横になった姿勢で無防備に口を開けて虫歯の治療をしてもらっていたら、母に耳掻きしてもらった心地よさを思い出して、涙がふーっと湧いてきた。最初、ホリガン先生は治療につかっている水が顔にとんだものと思って、歯科衛生士さんに「水、ふいてあげて」と指示を出していた。でも歯科衛生士さんは、さっと拭いているのに、水が下から上にむかって湧いてくるので???となった。「それって水しぶき?それとも泣いているの?」と問いただされて、もう他界している母に優しく面倒を見てもらっているような錯覚を起こしたもので、と説明。それを聞いたホリガン先生も歯科衛生士さんも、自分の母親のことを思って一緒に泣いた。
ホリガン先生のお母さんは亡くなってからまだ2年だそう。老人病院に入院していたお母さん、あぶないかも、という状況で家族が駆けつけたものの、意外としっかり持ちこたえた。だからみんな帰宅してもいいという判断になった。ホリガン先生が長旅を終えてご自宅にたどり着いたとたんに、お母さんの病院の近くに住む妹から、「今、亡くなった」と連絡が入ったそう。そのときには家族は解散した後で、お母さんは家族がいないところで一人で旅立たれた。残された家族の間では「お母さんは一人で去っていくプライバシーがほしかったんだね」ということで納得しているという。その後、ホリガン先生は毎日、朝夕の二回泣くという期間が長く続いて、最後は心のセラピーを受けて、なんとか落ち着いたらしい。「母親を亡くすってとてもひどい体験よね。この悲しみは一生消えないんだと思うわ」といいながら、わたしよりも20歳くらい年長に見えるホリガン先生は、涙をぬぐった。