ティラノの誕生日。こちらの人は誕生日をクラスメートみんなで祝うことを大事にしていて、「ママの手作りの焼き菓子」を学校に持っていってみんなで食べたりする。グッディーバッグGoody Bagといって、小さな袋に、キャンディーやチョコなどのちょっとしたお菓子や、シールや鉛筆、消しゴムなどの小物を詰めたものを配ることもある。ティラノのクラスでは、はじめの頃はGoody Bagを持ってくる子もいたけれども、それに夢中で子供たちが授業に集中しなくなったのでGoody Bag禁止令が出ている。アメリカで迎える誕生日ももう5回目。はじめのうちはものめずらしさもあって、子供のために、アメリカの子がやっているような派手なパーティーを目指したりしたけれども、今はそれがむなしく、もったいなく、無意味で面倒に感じられて、はっきりと言って辟易している。家族で祝う以外にパーティーはしないからねと言い渡したら、意外とあっさりと、「そうだよね、なんか面倒くさいもんね」と了承したティラノ。せいぜい学校で「今日の主役」になってもらおうと、学校へ持たせるために、夕べのうちにブラウニーを焼いておいた。
 出来合いのミックスを焼いただけのブラウニー、ちょっと焼きすぎてしまった。朝、器に盛ってみたら、はじがカチカチに固かった。「ごめーん、ティラノ。おかあさん、失敗しちゃった。(ひとつの型で焼いて24個に切り分けたうちの、型の)角のところのなんてカチンカチンだ」と言ったら、じゃあ、なるべく僕がそれをたべるようにしてあげるよ」と。この子には、あんまり大人びているのでびっくりさせられることがたまにある。朝目が覚めると一番に、日本の父方、母方両方の祖父母から贈られたプレゼントを開封し、幸せ度100%のティラノ、そんなにすきでもない甘いケーキのことなんて、どうでもいいのかも。プレゼントでいただいたばかりの真新しい洋服に身を包んで、彼はご機嫌で登校した。
 さて、このブラウニー、先生が会議があることを忘れていて、都合が悪くなったので、ティラノの誕生日を祝う時間がなくなってしまい、食べられなかったそう。先生はひどく申し訳なさそうにされていた。「ティラノは大人っぽいところのある子でね、そういうことは気にしていないはずだから、大丈夫ですよ」と先生に言っても、「表面的には大丈夫そうに見えるけど、がっかりしているはずだから申し訳ないわ。」先生は侘びのしるしに、明日も、誕生日の子に与えられる特権をティラノに与えてくれるとおっしゃっていた。
 お友達から山のようなプレゼントをもらうといったタイプの祝い方をしなかったけれども、ティラノは一番ほしかったポケモンのカードを贈られて心底幸せ。誕生日当日まで開封をがまんしたこともあって、お誕生日の喜びも最高潮。数が少ないほうが、いただいたプレゼントの有難味が感じられて、自然といただいたものを大事にするのでいいと思う。ものがあふれかえっている社会にいて、ものを大事にする気持ちを育てるのがむずかしいと感じるけれども、今年の誕生日はうまくいったぜい。