教室に入ると、先生が準備してくださった馬頭琴のCDが静かに流れていて、とてもいい雰囲気。黒板には大きな画用紙に描かれたモンゴルの草原の風景と、馬頭琴を演奏する男性の写真、それに劇でも使用される手作りの馬頭琴の模型が。お菓子の空き箱を再利用したような造りの馬頭琴は、黄色い色画用紙で丁寧に仕上げられ、表面の模様まで細かく書き込まれていて、一生懸命に製作した様子が伝わってきた。
 ほとんどの保護者がカメラ、ビデオカメラを構える中で劇が進行。全員がかわるがわるにお話を朗読し、朗読を担当しない場面では、役柄に応じて各自が製作したお面をかぶって演技。ティラノは朗読のほかに、白馬をおそう狼、それに羊飼いの役をやった。こどもたちが作ったお面は、それぞれの個性がでていておもしろかった。原作の挿絵とおりに絵を再現したお面、漫画のキャラクターのようにインパクトのあるお面、自分のイメージで自由に表現された動物のお面など、いろいろだった。
 朗読劇ということで、先生は朗読の仕方に力点をおいて指導されたよう。声の大きさ、読む速さ、句読点での間のとり方など。実際のところ、本番ではこどもたちはかなり緊張してしまったのだろう。読み手を交代するときに、「おい、誰々、早くしろ」なんて声も聞こえて、みんなあせってしまったかな。先生は脇から「ゆっくり、ゆっくり」とアドバイス。結局、先生の予定されていた25分よりもかなり短い15分で劇が終了した。
 週に一度しかない育英の授業時間の中で、よくここまでがんばったなと思う出来だった。王様の要求を拒んで白い馬を譲ろうとしなかったスーホが、王様の家来に叩きのめされる、という場面では、スーホ役の子が暴行をうけて手足を痙攣させるという迫真!の演技。無理やり王様に飼われた白馬がスーホの元に帰ろうと脱走すると、家来が弓矢を放って白馬を追うという場面では、ダンボールと輪ゴムの束で作った弓矢が大活躍。本当にビヨヨーンとおもちゃの矢が飛んで、観客の笑いを誘った。みんな、とっても楽しかったよ!
 着物を着ていたわたしは「今日はどうしたの?何かあるの?」と声をかけられた。「劇に出演するの?」とか。いいえ、わたしは観るだけですー。地味な着物だったけど、女の子たちは年齢を問わず、「あ、きれい」とか「なんで着物きてるの?」と注目してくれた。う〜ん、女心よね〜。「その”洋服”きれい」と言った幼稚園の年長さんの女の子は、おかあさんに「きものっていうのよ」と訂正されていた。
 Tちゃんのパパが「あれ、今日はすてきですね」と声をかけてくださったのを聞きつけたI先生が「ちがうわよ、今日”も”すてき、でしょ」と突っ込まれたのには笑ってしまった。I先生はジャズピアノが超お上手で、先週の幼稚園のおたのしみ会では、こどもたちが演じる俳句劇の音楽を担当された。その他、育英の行事のいろいろな場面をすてきなピアノで彩ってくださる。完成された音楽をそのままに弾くのではなくて、状況にぴったりくるようにアレンジできるのが本当にすごいと思う。俳句劇の音楽も、I先生が作曲されたと聞いた。も〜う、なんて素敵なのかしら!こんなハイレベルな音楽を学校で聴けるのはニューヨークならではなんだろうな。もうあと残すところ新年度の一学期だけ、夏にはNCに行かなくてはならないと思うと、本当に残念。やっとNYが楽しめるようになってきたところなのにね。