ティラノ、リーディングのコンチェルト(op.35)を持っていった。今まで耳で曲を覚えてきたために譜読みが苦手なティラノは今楽譜を読めるようになる練習中。だからこの曲も、曲になるのに時間がかかるのにイライラするのに耐えながら、本人が自力で読んだ。だから楽譜を入手して一週間弱では一楽章全部がすんなり通るところまではいかなかった。でもティラノも私も曲はとても気に入った。グイやスコミムスも気分がいいときはこの曲で踊ってしまうくらい。まだ弾けていなくても、本人が気に入って練習してきたことは先生にはすぐにわかるらしい。"Good! It's not too difficult for you at all!"
 この曲を弾く上で、知っておくと得するトリックがあるんだよ、という前振りで教えていただいたのは、この曲のボーイングが単純だということ。なんと二拍ずつでアップダウンするだけの箇所が多い。そ、そうか、だからこの曲は弾きやすいのかっ!ガビーン、気がつかなかったヨ〜。どうりでティラノが弾くときに、右へ左へとへんな揺さぶりがでてしまうわけだ。体が斜めに倒れるような揺れではなくて、体の中心を軸にしてひねるような、変わったノリなの。まだ一生懸命譜を読んでいる段階なので、「揺れるのをやめなよ」という一言をずっと呑み込んできたんだ。
 曲の構成を理解するために、大きな塊ごとに印をつけてくるのが宿題。ヤンガーマン先生は詩がお好きらしく、音楽のフレーズだとか塊だとかを説明するのにも、詩の比喩を多様され、例を示すために、ご自分で即興されたりする。ちなみに果敢にチャレンジされるものの、母語でないせいもあってか出来はよくなく、あまりいい例えになっていなかったりする。四行の詩で一行目と三行目が同じで、二行目と四行目にはバリエーションがあると説明しようとされて、I went to the sea/ The wave is blue/ I went to the sea/ and... I don't know the English rhyme... というような感じ。アメリカ人でない先生はこういうところがおもしろい。
 レッスンが終了して一旦帰宅。家に到着して車が停止するかどうかというタイミングにティラノが「気持ち悪い!」トイレに駆け込みたいだろうと思って家の鍵をあけている間に、車の外でもう吐いていた。ありゃりゃー、どうしたのかな。
 ティラノの具合が悪かろうが、スコミムス自身に問題がないのに続く彼女のレッスンをティラノのために休ませるわけにはいかない(鬼母?)。元気な子たちと自分は夕食をささっと食べ、ティラノには、状態がよくわからないのでとりあえず胃の薬を飲ませてレッスンに向かった。お腹が空っぽになった後は吐きたくはならなかったようだけれども、ぐったり。帰宅したらすぐにふとんに入って寝入ってしまった。
 そんなお兄ちゃんの犠牲の上にたったスコミムスのレッスン。わたしも先生と同じ内容のことを注意して弾くように練習させているつもりなのに、どうも本人に理解させる力が全然違うみたいだ。何をどのように注意してほしいのか、ということを伝えるのが、さすがに先生はお上手。わたしは短気になってギギ−っと怒るからいけないのか。左手首がぐちゃっとつぶれないようにわたしが手を添えるのは最も簡単な方法だけれども、本人が自分の意志で手をコントロールする感覚をつかみ、それを悪い癖を乗り越えて定着させるようにするためには、時間がかかっても、本人にいちいち修正させるようにしなくちゃいけないのね。