おーりが〜みぃOrigami

 ティラノがサンクスギビングに先生に贈ったカードに折り紙の鳥をはさみこんだのと、年末の先生への御礼のプレゼントを和風に包装したのがきっかけで、折り紙その他の日本の文化を紹介する時間を、ティラノの現地校の2年生のクラスで設けることになっていた。今日はその本番。
 折り紙は「おーりが〜みぃ」としてアメリカでもよく知られている。そういうものがあって、こどもの工作としていいらしいということは知っていても、折り紙の経験がある人に手とり足とり教えてもらわないとわからないわー、というのがこちらの人の実感。「都合のいい時にクラスに来て教える気はない?」と聞かれれば、出たがりのわたしは「行く行く!」と返事をする。また、たまたま担任のミセス・ダニカンは、お父さんが「真珠湾」を体験した軍人で、病院に日本人の看護婦さんがいた関係で、日本の習字について知る機会があった。それで、お父さんが硯で墨をすって筆で字を書くのをみて「クール」だと思っていたということで、こどもたちに習字のデモンストレーションをやってもらえないかとも依頼された。漢数字を見せてもらえれば、外国ではいろいろな数字の表現があることをこどもたちに紹介できる、という先生の希望だった。
 こちらの生活でも、せっかく持っている着物を着る機会をなるべく作りたいわたしは、過去に折り紙を幼稚園で教えたときには正絹の着物を着た。今回は忙しくて事前の準備ができなかったし、外は根雪と泥と道路にまかれた砂でぐじゃぐじゃなので、真冬だけど浴衣を着ることにした。天気予報によると最高気温華氏34度とのこと、0℃以上あるから暖かいわ、下着を重ねて、外では雨コートを着てどうにかすることにした。
 中国製の超チープな浴衣とはいえ墨で汚れるのはさすがにいやなのと、時間配分の関係で、習字をその場で披露するのは見送って、事前に紹介したい文字を家で書くことにした。千羽鶴のサンプルとして百羽鶴を折る作業もあったので、夕べは睡眠3時間だった。
 トリケラに英語の個人レッスンを休んでもらって、グイを家で見てもらった。約束の朝8時30分に微妙に(1分くらいだと思うけど)遅れ気味で到着。この学校では学年ごと(各4クラス)に一つの校舎に分かれており、全ての校舎に鍵がかかるのでたとえ学校の関係者であっても用のない建物には、ブザーを鳴らして中にいる先生にドアをあけてもらわないといけないようになっている。わたしが到着したときには、すぐにドアを開けられるように先生がドアの横の窓のところで立って待ってくださっていた。約束にはそんなに遅れていないけれども、約束のずっと前から待っていたのか、アシスタントをお願いしたクラスメートのおかあさんデニスと先生は待ちくたびれた様子。す、すみません。
 話の内容は、まず日本とアメリカのそれぞれについて世界地図の中での位置、首都、人口、国土、国旗について比較、ついで半紙に書いた平仮名、カタカナ、漢字の簡単な紹介、最後に折り紙(新聞紙でかぶとを製作)ということにした。習字と折り紙のつなぎに「Sadako and the thousand paper cranes」という本を使った。折り紙の折り方を教えるときには、語学力不足と相手方の未経験をカバーするために、事前に目印のシールを貼っておいて、「チューリップのシールが貼ってある角どうしが重なるように折ってね」というように、教え方を工夫している。
 地図で日本の場所を示した後に「アメリカの首都はどこですか」と質問したところで、話のレベルが高すぎたことにすぐに気づいた。2年生では社会科の学習がそれほど進んでいないので「首都」という言葉を知らない。それは心得ていたので、「それはガヴァメントのある場所だよ」という説明を準備していたのだけれど、Governmentもわからないというところにまで気づかなかった。「では、Governmentとは何か、ミセス・ダニカンに聞いてみましょう。」いきなり話をふられた先生はびびっていたけれども、先生という人種は、教えてくれといわれると快感らしくて嬉しそうに説明してくださった。それで首都はどこかという質問への子供達の答えは「ブロンクス」「ニューヨークシティー」「プレジデントの家」など。4人目の男の子が小さい声で「ワシントンDC」と言ってくれた。「では、日本の首都は?」手をあげたものの、ティラノ、東京ってわからなかったみたい。
 こちらの子供達は、質問に対する答えがわからなくても、いや、質問を理解していなくても手を上げて何か言おうとしてくれる。日の丸の絵を示して「これを見たことがある人?」「ある、あるー」とほぼ全員が返事。「星条旗にはスターとストライプが描かれているけれども、日本の国旗のこの赤い丸は何だと思う?」という質問にパッと手を上げた子をさしたら、ニコニコっと笑って"I think I know Japan."こういう時にはどうフォローしたらいいのか、わたしゃ修行が足りんのでわからん(先生が見かねて、違うのよ、丸が何を意味するか聞いているの、と念を押してくださった)。関係ないときに"I like your dress."といわれたときは「ありがと」って答えたんだけどね。一人だけ”出来杉クン”がいて、「人口ってどういう意味の言葉かな?」と聞いたら"The amount of people living in a specified area."と、ほとんど辞書の定義のまんまみたいな答えをしてくれて、面食らった。
 日本で使われている文字を紹介したところは、先生もデニスもおもしろそうに話を聞いていた。「あいうえお」「アメリカ」「安田○○(ティラノの名前)」と三種類の文字を書いた半紙を黒板に貼って、平仮名、カタカナは音を表し、漢字には音だけでなくその字固有の意味があると説明。大人二人は感銘を受けた様子。ティラノのラストネームはPeaceful rice fieldで、ファーストネームはA person who brings peace to the worldという意味なんだと言ったところで、クラス中がオオー!フーム!と唸った。サービスでアントワネット・ダニカンという先生の名前を語呂合わせで漢字で表現(安永遠音人・暖仁寛先生)して漢字の意味を説明したら、先生は大感激で「わたし、これは額にいれるわ!!」目がちょっとウルウル?津波も最近の話題だったので紹介してみた。「津」はport, harborなどの船が停泊する場所、「波」はwaveと説明。この地域はロングアイランドの北側で、学校のある町名にportがつくし、そこらにharborがあるので、子供達にも身近な話題となった。
 漢数字で一から十まで、それに百、千を紹介したら、「千は十とよく似てるね」との声。いやだん、そんなこと思ってもみなかった。わたしの下手な習字で書いた数字を一生懸命見てくれた子供達の観察眼に感心。
 千が1000だと説明した後、いよいよメインの折り紙へ。伝説上、鶴は千年、亀は万年生きるといわれていて、長寿を象徴するおめでたい生き物、着物の柄と掛け軸の画像をインターネットでゲットして印刷したものを紹介。「Sadako」は病気を克服しようとして鶴を千羽折ろうとした、といいながら、わたしの百羽鶴を披露。「一本の糸に20羽の鶴がいて、その連が5本あるからこれで百羽。本当の千羽鶴はこれの十倍の鶴が必要なんだ」というくだりは掛け算のコンセプトを理解する格好の材料。まだ現地校の2年生は掛け算が履修範囲にはいっていないものの、先生は少しずつ生活の中で掛け算に触れるように心がけておられるので、とても丁寧に補足説明をしてくださった。
 かぶとの折り方は、まず最初にわたしがみんなの前で一人で全部を折って、流れを理解してもらった。それから、紙を正しい向きに置くところから、一ステップごとに、全員の進度を合わせながら折っていった。これは準備が十分だったし、紙が大きいし、折り方も複雑ではないので、途中でわたしが一ステップ抜かしたミスをのぞけば、うまくいった。完成したかぶとをかぶったら、特に男の子たちは上機嫌。"I am the King of Japan!"という歓声も。女の子たちは何を勘違いしているのか、チャイニーズ風に腕を胸の前で重ねて両袖に手を互い違いに入れて、そそそーと足を刷りながら歩いてみたりしている。ま、楽しんでくれたみたいでよかった。
 一番喜んでいたのはやっぱりミセス・ダニカンだな。いろいろな話をうまくつなげて、流れを作ったのを誉めてくださった。そう、そこは知恵をしぼったところなのよー。そういわれて振り返ってみれば、約一時間のセッションに社会科、算数、図工、書写が織り交ざった格好。われながら、なかなかよく出来た授業だったなと思う。あー、楽しかった!
 かぶとをかぶった子供達と写真撮影をしたあと、ミセス・ダニカンはわざわざ校長先生にわたしを紹介してくださった。人を紹介するときは、とくによく紹介してくれることもあって、言われているわたしは快感。家に帰った10時頃は快晴、わたしは鳥になって空を飛んで来た気分だった。こういう時にすっと留守番を引き受けてくれる優しいダンナサマに感謝。お父さんが寝ちゃったので、一人ぼっちで長い一時間をがまんして過ごしてくれたグイにも、ありがとう。