グイが長引いている中耳炎の治療として、鼓膜にチューブを入れる手術を受けることに。耳の専門医ドクター・スペンサーは調子よく「手術は2分で終わる簡単なもの」と言っていた。手術前のチェックのために、かかりつけ小児科医のドクター・トメイの診察を受けた際、「手術を受けないにこしたことはないけれども、色々やっても改善しなかったから仕方ないわね。でも手術そのものは20分くらいのものだから。」私「あれ、ドクター・スペンサーからは2分って聞いていますけど。それに麻酔じゃなくて、ちょっとマスクをかぶせてガスを吸わせるだけで簡単だって言われました。」トメイ先生「ええ!それだって麻酔のうちよ。全く、どういうつもりかしら?」初対面の印象はよかったけど、ドクター・スペンサー、口はかなりいい加減だということがわかった。
 朝5時半に起床。みなの朝食と弁当の準備を済ませ、グイの着替えをトリケラに手伝ってもらって出発。6時45分に受け付けに到着。手術は8時45分から。受け付け後、書類仕事を済ませて小児科の病棟へ。ブザーを鳴らして、ドアの鍵を開けてもらって病棟に入る。新しい病棟は、丸い窓があちらこちらに設置されていて、船を思わせる装飾が施されている。と思ったら、看護師のデスクは船の舳先のようになっていた。テーマパークかいな、ここは。
 Cribベビーベッドをあてがわれて、かわいいプリントの病衣に着替え。病院のベッドにすわらされるだけで、何かいやなことがあると感じて泣き出してしまうグイ。泣きながら体温、血圧などを測られた後はひたすら待機。個別に小さいテレビを与えられたのが救い。24チャンネルでなんとフジテレビをやっていた。うちのケーブルと同じなのかなー。うちも契約を変更したら、この時間帯に日本のテレビが見られるのかな。曽我ひとみさんのお父さんが亡くなったというニュースをやっていた。
 8時半くらいだったか、看護師さんが「これはトランキライザー」といって、注射器様の器機に薬剤を吸い上げたものをぐっとグイの口に押し込んだ。ちゅっと注入しては「はーい、こちょこちょ、飲み込んでー」、そしてまたちゅっという具合に数回に分けては薬を飲ませた。なんか乱暴だなー。それ、のどの奥にぶすって刺してんじゃないの?グイはその後ずっと咳きをしつづけた。「そのうち眠くなるからねー」という言葉とは裏腹に、グイはいつまでもテレビの子供番組に見入っていた。本当にあの薬、効いているのかな?
 やっと時間になり、からっぽのcribを男性二人が転がし、患者のグイはわたしが腕に抱えて、手術室のある4階へエレベーターで上がった。笑顔が感じよくハンサム、だけれども調子の良すぎる麻酔医が超早口で麻酔についての説明を済ませた。わたしがわかろうがわかるまいが構わない感じ。「さあ、もう準備ができた。あとはあのビッグガイ(ドクター・スペンサーのこと。背が高く、肥満ではないけど横幅もある感じ)が来るのを待つだけだ。ハハハハ!」リラックスさせようとしているだろうけれども、軽薄すぎ。
 やっと登場したドクター・スペンサー。「この手術はすぐに終わるから」の繰り返し。いろいろな人から「大丈夫?」と声を掛けられたので、わたしはきっと眉間にふかーくしわを寄せていたのに違いない。"How are you?"に"Good."と答えていたけど、「ふーん、そうは見えないけど」というキャプションがドクター・スペンサーの顔に貼り付いていた。
 手術室の中央には小さい手術台が。手術室はエアコンが効いているような寒さ。冷たいベッドに寝かせたら、グイはきっとまた泣いてしまうだろうと思ったけれども、促されるままにグイを横たえたら、彼女はうつろな目つきで、ぼや〜んとされるがままになっていた。転落防止の黒くて幅の広いベルトをしめられても、抵抗しない。かろうじて、ベルトの端をつかんでみただけ。やだ、グイがグイでなくなってしまったようでこわい。そこへ麻酔医が麻酔のガスをすわせるマスクを口に近づけた。"It smells like strawberry. Umm, yummy yummy gas!"だって。あんたは軽すぎなんだってば。グイはこれからどうなっちゃうの〜?と不安半分、好奇心半分でグイの手を握っていたら、"Thank you, mommy."と笑顔で手術室を追い出された。
 年配の看護師さんが待機する部屋へ案内してくれた。トイレの場所を尋ねると"Hum, that's a good question."(Goood questionとは、実はよい質問という意味ではなく、質問されたら困るいやな質問という意味。簡単に言えば、わたしにはその質問の答えがわからないってこと)。そこは手術のための階なので、トイレがないことがわかり、エレベーターに乗って1階の小児科のトイレを使用。ついでにコップに半分ほどのコーヒーをゲットして、また4階に戻った。ソファーに腰掛けてコーヒーを飲み終わったころに、「手術は終わったよ」とドクター・スペンサーが。あら、ほんとうに短い手術だった。
 麻酔から覚めるのにしばらく時間がかかったけれども、またテレビを見ている間にもとの調子に戻ったグイ。外見上はもとのまま。チューブを入れた直後は音が大きく聞こえるので、耳元で大声を出したり近くで騒がないようにと注意された。空腹ではあったので、母乳をごくごく飲んだ。わたしに出してもらったアップルジュースもほしがったけれども、ジュースはわたしが飲み干してしまっていた。まだおなかがへっていたらしく、グイは氷をがりがりと食べた。帰りの車に乗る頃には、麻酔のせいか、ややハイ。「ねんねーこー、ねんねー。ははーのー、こまこー、こにょー、ちれー(子守唄のつもりらしい)」といい歌声。