「がーべっじ」

「がーべっじ」はgarbage、ごみです。4年前にコールドスプリングハーバーの研究所に来たばかりのとき、研究所の敷地内にある、短期滞在用の住宅に仮住まいをしました。そこの掃除やベッドメイクは研究所の清掃の人がやってくれていました。大きなお尻の女性がドアをノックして「がーべっじある?」と聞くのですが、がーべっじという言葉ははじめて聞いたもので意味がわかりませんでした。がーべっじって何?と尋ねると、「これ、これ」と透明なビニール袋をワサワサと振ってくれます。日本から来たばかりの時は、ゴミ袋というとスーパーの白い袋のイメージだったので、そのボディランゲージの意味もピンとはきませんでした。だってその人が持っていた袋は大きくてきれいで、その中にゴミなんてほんの少ししか入っていなかったのですもの。
 口語で「ゴミの回収」というときはgarbage collectionと言ったりしますが、これはくだけた表現の部類に入るのでしょうか、それとも汚〜いっていう語感があるのでしょうか、市のゴミ回収のカレンダーには"Trash Pich Up and Recycling Calendar"と書かれています。
 garbageは文字通りのゴミという時以外にも、自分にとって価値がなく、くだらないものを表すときなどに比喩的に使われます。ドイツから来た年配の婦人が"American food is awful. You don't want those garbages for your children."と言ったときには、食べ物が”がーべっじ”とはすごい表現だと驚いてしまいました。少し生活に慣れてみると、garbageはいろいろなところで使われていて、単に「くだらない」「喜ばしくない」というニュアンスを出したいときに活躍しているようです。その老婦人も、アメリカの食べ物が”ガラクタや生ゴミが入っていて異臭を放っている廃棄物”のようなものだと言ったわけではないはずです。
 余談になりますが、わたしたちが以前住んだ家の隣には、ティラノと同じ年の双子の男の子たちがいて、そのお父さんのロジャーはゴミ収集を仕事にしています。彼は市の職員で、以前は収集したゴミの廃棄先を手配したりする管理職の地位にあったのが、辞令一つで、トラックに乗り込んで自分の手で一つ一つゴミバケツをつかんで、トラックにゴミを積み込む仕事にかえられてしまいました。この地域のゴミ収集は週2回。アメリカの巨大なゴミバケツに入るゴミの重さは半端ではないと思います。ロジャーはアーノルド・シュワルツネッガーのようなムキムキの筋肉マンですが、それでも仕事はきつくてたまらないと言います。冬にはたくさんの雪が降るニューヨークですが、道路の除雪をするのもロジャーの仕事です。今年はそれほどひどい雪は降っていませんが、昨年は数え切れないほどの豪雪に見舞われました。休暇が全然とれず、深夜、早朝に除雪作業をさせられて、ロジャーはへとへとになっていたようです。体格ががっしりしているだけでなく、ロジャーは知的な感じがする人で、それに、すごく積極的に育児に関わっていて立派な人です。奥さんのリンダはディスレクシック(失読症)で、頭はいいけれども文字や数字を読むのが困難です。(生まれつき文字などの情報を読み取るプロセスに問題があるだけで、頭が悪いのとは違います。学校というセッティングにはそぐわないので学歴は高卒ですが、人柄やものの考え方などはむしろ教養人の部類にはいると思います。)そんな彼女をフォローするために、家計や請求書の管理などはロジャーが受け持っているとか。車やボート(ここは島なので、趣味でボートに乗る人が多いのです)、家の補修はお手の物、裏庭の木の上に、本職の大工さん顔負けのツリーハウスを作るなど、本当に何でもできてしまうロジャーのスーパーマンぶりには感服してしまいます。