「おかあさん、アメリカ人ってこうやって中指立てるの、きらいなんでしょう?どうして?」とティラノ。「それは下品だから、やったらいけないんだよ。」「げひんって何?」「うーーんとね(む、難しい質問だ)、ご飯食べるときに音立てたり、汚く食べたり、人がいやがるようなことをしたり、例えば、けんかするときにおちんちん蹴っちゃうとかの卑怯なことしたり、そういうことかな。」「どうして中指立てたらいけないの?」「むむむー。」

 ティラノはもう2年生。うちがアメリカに引っ越す前に住んでいた川崎市中原区の小学校では、保護者に事前の連絡や相談もなく突然に性教育を2年生の授業でやったので、ある子が家に帰ってくるなり、「おかあさん、ペニスってさあ、、」と言い出したので、親がびっくり仰天したのだと、公園のうわさ話で聞いた。ティラノもその年齢になったんだ。前から「”けっこん”すると赤ちゃんができる」という説明に納得がいかない様子で、「けっこんって”どうやる”の?」と繰り返し疑問を口にしていた。ここは腹をくくって、生命の神秘の一番話しにくいところを話さないといけないかと、どきどきしながら、頭の中で説明する文言を探った。自分を落ち着けるためにもとりあえず、紙と鉛筆をとりだして、花のおしべとめしべの絵を描いて話し始めた。「こうやっておしべから出る粉がめしべにくっつくの。そうすると種ができる。これが植物にとっての”けっこん”だね」というと怪訝な表情のティラノ。「結婚って言っていることの内容はひとつじゃないの。この間日本でYちゃん(わたしの妹)の結婚式に出たでしょう。あの結婚っていうのは、日本の場合は特別な紙に結婚したい人が名前を書いて、”わたしはこの人と結婚することに決めた”ことを役所に届ければいいの。韓国の人はお母さんのラストネームがかわらないから、お父さんとお母さんのラストネームが違う。たとえはサーヤンはユー・サーヤンでオージンはキム・オージンじゃない。でも、日本は家族のラストネームは同じのにしないといけないって決まっているから、YちゃんはミズシマYっていう名前にかわったのね。」そういいながら、紙に妹の名前を漢字で書いた。「ミズシマって水って書くんだ」と漢字のほうに関心が移ったティラノ。オトナの話をしないといけないかと思って、すごく緊張したんだけど、ティラノのほうでもともとの疑問がどこかへ行ってしまったよう。あら、「ふぁっくゆー」はもういいんですか。だまくらかすつもりはなかったんだけど、話さないで済んで、ほっとした。

 実は、昨日、車の中で「スコミムスは逆子だったから、お腹を切って出てきたし、一度お腹を切っちゃったからそのせいで、グイもお腹を切った」という話をしていた。当然、じゃあ、ぼくはどこから出てきたんだ、という疑問につながる。なるべく冷静に、「女の人にはおしっことうんちが出る穴のほかに赤ちゃんが生まれる穴があるんだよ」と説明した。「えー、どうやってでてくるの?」「グイのちっちゃいお口を見てごらん。寝ているときは閉じててちっちゃいでしょう。でも笑ったり食べたりするときは、びよーんと大きく開くでしょう。赤ちゃんが生まれるところも、用のないときはちいさいけど、赤ちゃんを産もうっていうときになったらにびよーんって開くんだよ。ほら、耳をひっぱってごらん、人のからだって結構のびるでしょ」ってな具合。そのへんで納得してくれたようで助かった。血圧が上がったよー。