アメリカの英才教育の実際:Cow's Eyeball!

 きのう風邪で学校を休んだティラノ、あんまり退屈だったので今日は喜んで学校へ出かけていった。ティラノは水曜日の午前中はインヴェスティゲイトInvestigateプログラム(保護者、教師の推薦や知能テストを経て全米でトップ3%に入ると認定された子供を対象にしたエリート教育のプログラム。ティラノは算数が比較的よくできる上に、現地校の学年のうちでは早く生まれたほうなので有利なのだ。選ばれたのは純粋に嬉しいことだけれども選抜の基準についてもやもやとしたものが残らないでもない)に参加する。
 放課後、学校へ迎えに行って顔を合わせるとすぐに「おかあさん、おかあさん。今日のインベスティゲイトねー、おかあさんがいやがること、やったよー!見たい?」何だろう。見せる前に教えてよ。「あのねー、ぼく牛のアイボール(目玉)持ってんだよ。手袋はめて触ったら、ぷにゅぷにゅってしてたよ。横からつまむと上にぷにゅって出て来るんだよ。」目をギラギラさせてバックパックからティラノが取り出したものは、ジャムのビンのようなものの中で、アルコール漬けの牛さんのお目めさんとその周辺の組織がグズグズになって浮遊しているキモチワルイ標本。スコミムスが「わたしもさわってみたーい」と言ったら、病気がうつるといけないから、手袋がないとさわっちゃいけないんだとさ。
 2年生の今年は目の勉強をしていて、来年(ティラノは引越すので残念ながら参加できないけど)はかえるの解剖かなにかをやり、もっと高学年になると”ヒューマンブレイン”について学ぶのだそうだ。ティラノは自然科学の分野に興味を持っている(それに限られてもいないけど)ので、こうした授業が彼の知的好奇心を強く刺激していることは確か。家庭では思いもつかない内容だし、やろうとしたって提供できないレベルの教育なので、ひたすら感心するばかり。全米にいろいろなプログラムがあって、中にはあまり質がよくないものもあるのだろうけれども、ティラノが今参加しているものはすごくいいなと思う。(日本の”ガリ勉”とは全然性質が異なる。)
 牛さんのお目めはどこから持ってきたのかなあ。牛は食肉として大量に消費されているから、つてがあればいくらでも手にはいるのだろうけど。もう死んでしまっているから、こどもにもあまりつらくないし、動物愛護団体から文句言われないし、なかなかウマイな。日本の学校教育からは動物の解剖はとっくの昔に消えてしまったけれども、わたしも一度だけヒヨコの解剖を経験したことがある。あれは中学生の時、遠足みたいな特別な企画で訪問したなんとかセンターだったと思う。選択できる、いくつもあるプログラムの中から、他の女の子が籐細工のようなかわいいプログラムを選んでいるのを横目に、「一生に一度くらいしかチャンスがないことだから」とヒヨコの解剖を選んだのだった。
 いざ女子ばかりの班で、麻酔で眠らされているヒヨコがトレーの上に横たわっているのを見たら、先頭を切ってメスを振るう子は出なかった。あまりにも実習がすすまないので、見かねた理科の先生が「このヒヨコは強い麻酔で眠らされていて、仮に君達が”殺さなかった”としても、もう生きてはいけないんだ。ここまで来てしまった以上は、君達がしっかり学ぶのが、このヒヨコのために一番いいいことなんだよ。解剖した後はちゃんとお墓に入れてあげるからね」とおっしゃって、しゅーっと体の真中にメスを入れて、サクサクと「これが胃で、これが腸で」と説明しながら、きれいに臓器をとりだして右へ左へと見やすいように振り分けていった。その後それをスケッチしたんだったけな?帰り支度のノロい私は、一番最後に実習室を後にした。ヒヨコちゃんたちの遺体はお墓にはいるどころか、本体も切り刻まれた臓器も何もかも一緒に、ザラザラザラーーーっとバケツに流し込まれていた。
 もっと体系だてられたプログラムだったら、わたしはもしかして外科医にでもなっていたかも、なーんてことは神様にしかわからないけれども、あれが強烈な印象を残したことは確か。ティラノ君、短い間でもインヴェスティゲイトプログラムに参加できて、よかったね。チャペルヒル(ノースキャロライナ)では4年生からしか、こういう"Advavnced learner"対象のプログラムがないらしんだよね。
 アメリカのこういうのを見ちゃうと、日本からノーベル賞受賞者をたくさん出したかったら、本当にちゃんとした方法で適正な人材を選んで、適正なプログラムでエリート教育しないと太刀打ちできないよなあと思う。
 ちなみに、ティラノを選んでくれたその選抜の内容については、私は疑問をもっている。全くもって感覚ベースの話だけれども、この子がトップ10%に入るといわれれば、夫と自分の間に出来た子だ、二人のいいところを合わせればそれくらいはいけるかなと思う。またアジア系の子は算数に強い傾向があり、それに対してアメリカの算数のレベルは低いとわたしは感じるので、多少ティラノが抜きん出る理由はあるかなとも思う。さらに、アメリカにはいろーんな国からいろーんな教育レベルの人がやってくるから、貧しさゆえに親が中学くらいの教育しか受けられず、自ずと子供も高いレベルを期待されていないという不幸な状況の人も母集団に含まれる。だからそういう意味でもティラノが相対的によくできるという評価になるのも納得がいく。でもねー、でもねー・・・。親はやっぱり、この子はフツーの子だって思うんだよねぇ。
*こぼれ話:「ね、ティラノ。アイボールって一つの単語?それとも、アイとボールはバラバラ?」と尋ねたら、「アイボールはcompound wordだからone wordだよ」と教えられた。そんな文法用語、サラリと言われてもこまっちゃうよーん。