不思議な老夫婦

 トリケラがグラント書きで忙しい日曜日の午後、わたしとこどもたちは庭いじり。午後に子供達が家の中に引っ込んだあとも、わたしは一人で作業をしていた。すると、とても遅いスピードでこちらにアプローチしてくる白い車が一台。我が家の先の行き止まりまで行って、またUターンしてきた。「今朝この辺りを運転していたとき、この道と似たようなサークル状の道を通ったんだけど、どうもこの道は目的の道とは違うみたいだ。この辺りに他に同じようなサークル状の通りはないかね?」運転の速度が異様に遅かった(5〜10マイルくらいかな)のは道を探していたのと、運転手も助手席にいる同乗者もご年配だったからのよう。頭髪も肌も着る物も白いしわくちゃのおじいちゃま(背も縮んで前が見えていないのではないかというくらい小柄)と、美人でお上品な笑顔のこれまた全身が白いおばあちゃま。家の周辺を走る車は近所に住む人やその家族、友人知人だったりするので、なるべく愛想よくするようにしている。「ハロー」と言ったら、おばあちゃまはまるで知り合いみたいにするみたいに、とても穏やかなまなざしで会釈をしてくれた。(アメリカで”ゆっくりと会釈”なんて滅多にみないのよ、相手が日本人ならいざ知らず。)
 「わたしは引越してきたばかりだから、この辺りの地理にあまり詳しくないのだけれども、次の曲がり角もサークル状になっていたような気がしますけど」と返事をしたあとも、「なんか、庭の大改造をしているみたいだねえ」とか「こどもは何人いるの?いくつ?」そんな世間話をする間、なんだかおじいちゃまの視線が我が家のほうにジーっと固定されている。「この家は君が買ったの?」という質問にも、そのときはちょっと変わった質問かもという引っ掛かりがあったものの、「ええ、かれこれ2,3ヶ月前に」と答えていた。
 その場はそのまま別れたけれども、妙に気になるご夫婦だった。それじゃあ、と去って行った後もスピードがのろのろ。ご年配の人の運転が異様にゆっくりとしているということはありがちなのだけれども。後になって、どうしてその場で気づかなかったのかと思った。あれは、この家の前のオーナーだったんだろうな。道に迷っているふりをして、売った家を見納めに来たんじゃないかしら?屋根には真新しいガッターガードがついているし、子供の遊具は散らばっているしで、自分の家(別荘)が他人の手に渡ってしまったことがまざまざと実感されただろうと思う。
 何しろ築30年で、あまりアップデートされていない家だったので、台所がカビくさかったりといろいろと不満があったんだけれども、あの老夫婦がこの家のオーナーだったという仮定が正しかったとして、ああいう人たちの物だったのなら、こういう状態なのも納得がいくなと思った。わたしのおばあちゃんの家と同じだ。おばあちゃんが毎日生活している場なんだから、若い人の好みに合うようなデザインになっているわけがないし、隅々まで手入れしてあるわけないよなあ。
 ご本人たちは、とっても素敵な紳士に淑女だったんだよ。なんだか魔法にかけられたような不思議な気分。わたしのほうはノーメイク、泥だらけの作業服ってな格好だったので、あちらががっかりしたのではないかと、ちょっと後悔。子供達が外に出ていればまだましだったのに。アジア人の子供の黒い瞳は、目の色の薄いアメリカ人には神秘的に見えるみたいで、「かわいいねー、かわいいねー」とよく言われる。お世辞もはいっているだろうけども、誰にとってもグイくらいの小さい子(2歳)の姿は目の保養になるだろうと思う。
 
 




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