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 無料のシャトルバスに乗ってニューアーク空港へ再び戻った。わたしと子供たちはしとしとと降る小雨が所々から漏れてくる、シャトル待合所の屋根の下で、ひたすらトリケラが宿を確保するのを待った。ガラス戸から垣間見えるトリケラの姿。いつまでも、いつまでも、いつま〜でも、電話を耳から離さない。
 最初にグイがわたしの懐で寝入ったあと、スコミムスも「間違った」ホテルの玄関で眠りに入り、空港の建物の外のベンチでとうとうティラノも身を横たえて深い眠りに落ちた(夏だったのが幸い)。わたしも目は開いているものの脳ミソは活動していない状態。
 深夜にもかかわらず待合所に人は絶えないけれども、順次それぞれのホテルのシャトルバスに乗って去っていくので、浮浪者のようにベンチで子供たちが寝ていても誰も気にしないだろうと思っていた。そこへ、中国系と思われる若くてかわいらしい女性が「今夜、泊まるところあるの?」と心配そうに声をかけてくれた。「あるんだけど、ホテルの名前を勘違いしてしまったようなので、夫が今電話して確認しているところ」と返事しておいた。実際のところ、あの空港に掲示されているホテルの中には、わたしたちの部屋が確保されているホテルなんてなかったんだよね。あの人はああやって声をかけてくれて、「わたしたちは泊まるところがない」と答えていたら、どうするつもりだったんだろうか?
 建物の中で電話をかけていたトリケラはピンチに陥っていた。全部の番号にかけて確認しても、数時間前に、わたしたちのために一部屋確保してくれたはずのホテルには行き当たらなかった。考えてみるに、”部屋を用意できる”と答えたのは、あの「間違った」ホテルだったのだろう。部屋がないのに部屋があると返事してしまって、失敗を認めることをせずに知らないふりを決め込んだのに違いない。だから、わたしたちが玄関のソファで夜を明かしそうな雰囲気でも、追い出すことまではできなかったんじゃないかな。
 トリケラに功労賞をあげたいのは、ここから先のこと。マリオットホテルに電話して、必ずしもニューアーク最寄でなくても構わないから、ともかく泊まれるところをさがしてくれとリクエストした。マリオットならあちらこちらにチェーンがあるので、一箇所に電話しただけで、グループのホテル全部を確認してもらえたわけだ。自分で全部のホテルに電話していたのでは、それこそ朝まで時間がかかってしまうもんね。
 ついに本当に宿泊先を確保したトリケラは、疲れを隠せないものの、一つ成果をあげて、すがすがしさと自信、力強さが内側からにじみ出ていた。わたしのほうはといえば、「そのホテルにはシャトルがでていないので、モノレールに乗って空港内を移動して、タクシー乗り場まで子供と荷物を持っていかないといけない」と言われて、ショック。このネバー・エンディング・ストーリーが早く終わるようにと祈りながら、重い荷物と自分自身の体をひきずった。眠った女児ふたりに手荷物が二つ。この状態ではどうやっても8歳男児を眠ったまま、抱きかかえてやることはできない。非常に気の毒だったけれどもティラノには起きて自力で歩いてもらった。
(つづく)




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