6/30のつづき

 タクシーから荷物を下ろして、引越しの作業員の人たちに一通り挨拶を済ませた。さて、旅行の荷物をかかえて玄関に一歩足を踏み入れてみると、がーん・・・・・。床が出来上がってない・・・。
 玄関の敷石は前のオーナーが敷いていたもので、その先にはかつては白い絨毯が敷かれていた。わたしたちはフローリングの業者さんを手配して、引越し荷物の搬入の前に絨毯を全部はがしてフローリングに張り替える意向だった。それなのに、それなのに。玄関には絨毯をはがした結果露出した、前時代的なタイル模様のビニールの床が。ハードウッドはどこなんだ、ハードウッドは!引越し荷物を搬入できないのでは困ってしまう。業者さんは仕事を終わらせて帰らせてあげたいけれども、搬入できずに荷物を野ざらしにするってこともできない。家具もあるし、楽器もあるんだもん。
 トリケラに「床、終わってないじゃん」というと「うーん、終わってないみたいだねー。」家の中がどんな様子が見て回ると、リビングルームと3つあるベッドルームのうちの一つはほぼ終了している。そしてリビングルームの端から増築された半地下のスペースに行くと、50%ほど木を打ちつけ終わった床に、床屋のマークとポールがはいつくばっていた。ひょろながい体型でマークとは電話で話しただけで初対面。あんまりマークが人がよさそうな様子なので「”この部屋にはピアノを置きたいから、一番最初に終わらせてほしい”と言っておいたでしょう」という言葉を飲み込んだ。その場で言っても仕方ないしね。
 マークはピアノを置ける場所だけ確保して、残りの時間はまた他の部屋をやるようにしてくれるという。ま、荷物が搬入できるだけのスペースはあるようで、とりあえず一安心した。もともとビニールの床で作業する必要のなかったキッチンも重要なスペース。バスルームもビニールの床なので荷物置き場の候補ではあったけれども、床の作業をする上でじゃまになるドアが何枚も取り外されて、そこに溜まっていたので、引越し荷物を置く場所としては活用できなかった。
 せっかく引越し屋さんがわたしたちの意向に従って荷物を各部屋に振り分けてくれるというのに、寝室ではスコミムスとグイ用のベッドルームしか完成していないので、誰用の荷物かにかかわらず、寝室に置きたいものはどんどん女の子部屋になだれ込んだ。キッチンのものはキッチンに、リビングルームのものはリビングに、なんてはじめは理にかなった搬入をしていても、だんだん、どうでもいいから空いている場所に置いてくださいって状態になる。
 2000年の秋にアメリカに来たときには、アイテム。渡米の際には家具はゼロで来ていて、現在は家具も家族も増えたし、費用が大学持ちだとわかっているので持ってきたいものは全部持ってきている。その違いはあるけれども、それにしても荷物が多すぎだ。収納家具が何も収納しない状態で、その中身は別の箱に入っているわけだから、たいへんな空間のムダ。全部を搬入し終えたときには、通り道を確保するのも難しいほどに、床がある部分は荷物に占領された。最後には床ができあがっていないくて、ビニールが露出しているクローゼットなどにも荷物をおき、さらには、コンクリートが露出しているティラノの寝室になる予定の部屋にも20箱くらい搬入した。
 この引越しの作業員の人たちがわたしたちにとって初めて接する”南部の人”。4人が二手に分かれて、一組がトラックから玄関まで、もう一組が玄関から部屋まで荷物を運ぶという作業の流れだったようで、わたしが主に一緒に作業したのは、部屋まで運ぶ係の人。そのうちの一人が背の高いアフリカン・アメリカの人で、とても礼儀正しいのが印象に残った。わたしにも無理なく運べそうな荷物は玄関先でわたしが引き受けるようにしていたんだけれども、"I'll take that."といって荷物を受け取ると"Thank you,"そしてわたしが"Thank you,"というと、毎回必ず"You are welcome,"とちゃんと応えてくれるのだ。へえ、これが南部の人のコミュニケーションかあと感心していたら、実は彼は(まだ)”南部の人”とよぶべき人ではなかったよう。作業の終わりも近い頃に、彼も2ヶ月前にニュージャージーから引越してきたばかりなのだそうだ。へー、ご近所だったのね、なんて親近感が沸いちゃったりして。作業を終えてトラックに乗り込んで去っていくときには、"Congratulations on your new home!"と、とてもすてきな笑顔を残していってくれた。
 床屋のマークとポールも、「明日、主寝室をやるから」と言いのこして帰っていった。はぁ〜、みんなよく頑張ったねー。何とか引越してこられたよ!!
 トラックが来て見かけない人が出入りしているのだから、今日があたらしい住人の引越しの日だってのは、ご近所にはよくわかるはず。タイミングを逃すと挨拶しにくくなるから、とりあえずご近所のドアをノックしてこよう。あまりご近所づきあいに興味のないトリケラが、今日はとても積極的にドアベルを鳴らして"Hi! I'm Ryohei."と元気よく挨拶している。これが自分の家だっていう喜びに満ち溢れている感じがして、わたしもとても嬉しかった。挨拶のついでに、最寄のスーパーの場所を尋ねたりして情報収集。目の前の通りをずーっと行ったところにライオンがどうとかっていう名前のスーパーがあるらしい。よし、夕食の買出しだ!
 行ってみると、そこにはスーパーだけではなく、いくつか他の種類のお店も集まっていてちょっとしたショッピングセンターになっていた。中華、それに和食のレストランもあったので、こどもたちは「すし!すし!」夕食はそこでとることに。韓国人のマダムが経営しているそのお寿司屋さんは、それなりにおいしかった。わたしはトリケラに運転を任せることにして、ビールを好きなだけ飲んだ。ちょっと飲みすぎて饒舌になってしまったかも。大きな声で「ここのお寿司はおいしいねー」とマダムに話かけていたんだけど、彼女は”こまったなあ”という気持ちを笑顔で包んでさりげなく去っていってしまった。ははは。
 その晩はみんなで女の子の寝室にお泊り。みんなの布団を敷くスペースはないから、ティラノはソファに倒れこんだまま寝入り、ほかの4人は2枚のふとんにごろんとなった。グイはもともと布団の上に眠っていても冷たい床へ移動するのが好きなので、あまりじゃまにはならなかった。これでやっと6月30日の日記がおしまい。明日からは箱と床の工事との共存だけど、今日のところはおやすみなさい。




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